会長挨拶
- 会長挨拶

日本燃焼学会会長
藤森 俊郎
FUJIMORI, Toshiro
株式会社IHI
この度,日本燃焼学会の会長を津江光洋前会長の後任として務めさせて頂くことなりました。これまで会員の皆様が築いてきた学会活動の活性化と会員サービス向上を進め,さらに魅力ある学会となるよう努力して参ります。
2020 年の年初より発覚したコロナ感染拡大は,まさに世の中を一変させ,学会活動も大きな影響を受けました。津江前会長の下で多くの会員のご協力を頂き,オンラインでの燃焼シンポジウム,燃焼工学講座,調査研究などのイベントを無事に開催することが出来ました。その中では,若手の先生方の発案により,実験現場からの配信や,海外の著名研究者のネット講演が企画されて,多くの方に参加頂きました。また,ネット講義では,参加しやすくなったとの意見を多く頂きました。一方,顔を合わせて話す機会が無くなったことで,新しい出会いや広がりのある議論の場が減り,学会が人の交わる機会を提供する役割も大きいことを痛感しました。今年度の燃焼シンポジウムもオンラインで実施することになりますが,昨年度と同様に企画には工夫を重ねてまいります。また,小規模な会議,研究会などからハイブリッド開催を含めた直接会合の再開を模索していきます。
昨年起きたもう一つの大きな出来事は,10 月に日本政府が発表した 2050 年カーボンニュートラル宣言です。私自身のエネルギー関連事業に関わるキャリアで,これほどの大きな変化は初めてであり,多くの産業分野で,その対策が重要経営課題となりました。燃焼技術は,CO2 排出の 9 割以上に関連しており,まさに対策の中心となっています。バイオマス,水素やアンモニア,さらに CO2 と水素との合成によるメタンや e-fuel などの新たなカーボンニュートラルとなる燃料の製造から利用までのサプライチェーンに関する技術そして事業開発が進められています。一方,これらの燃料は,化石由来の燃料より高価になると予想され,高効率化,環境負荷低減の必要性は変わらず,多面的な取り組みが必要となります。
この動きは,各国の成長戦略とも関連した開発競争の一面もあり,日本が技術立国として将来も世界に貢献していくには,産学の協力による技術基盤の強化は重要です。実際に,アンモニアの燃料化については,戦略イノベーション創造プログラム (SIP)「 エネルギーキャリア」において,本学会会員の大学,研究機関,企業が中心的な役割を担い,短期間で実用化の目途をつけ,国のグリーン成長戦略に反映されました。自動車内燃機関においても,企業と大学の連携により,燃焼基礎研究からエンジン燃焼設計までがつながり,超高効率の希薄燃焼エンジンの実証を SIP「革新燃焼技術」で達成し,その後 AICE に引き継がれています。これらの成果は,このコミュニティの産学の連携が,大きな成果を短期間に出せることを証明しており,議論や新たな連携の場を提供できるよう努力していきます。今年度は,カーボンソリューションに向けた各産業分野の取り組みについて,シンポジウム特別セッションを企画いたしますので,ご期待ください。
燃焼工学は,反応と流動など輸送プロセスが複合する複雑現象を解き明かそうとする学問であり,多くの研究者を惹きつけ,本学会の発展の礎となっています。例えば,国際宇宙ステーションの「きぼう」を利用した微小重力場での燃焼研究は,日本のお家芸として世界をリードする分野です。学会としても,これら基礎研究の支援を行うとともに,成果の応用については議論を進めていきます。
今後の燃焼工学の発展には,他分野との連携が必須です。合成燃料は,燃料を設計できるわけで,利用側と製造の鍵である合成分野との連携は重要となります。また,シミュレーション,AI,モデルベース開発など,デジタルとリアルを融合した技術開発は,スピードと精度を求められる開発,設計においては必須となっています。さらには,異常気象による高温化で森林火災が頻発し,その火災研究の重要性は増し,理解と解決には,多様な技術さらには産業,当局との連携が必要であることは自明です。これらを進める上では,他学会との連携や学会の外へも情報発信を積極的に進めていきます。
学会会員数は,ほぼ一定で推移していましたが,ここ数年,減少の兆しがみえます。学会活動を取り巻く環境や,燃焼技術に対する企業の取り組みの変化も背景にはあると考えています。しかしながら,これまでお話したように,燃焼研究,技術に対する社会の期待や学問としての興味は大きく,現状分析から課題を明らかにして,会員メリット向上や業務効率化などの対策を進めてまいります。
以上の活動は私と共に,丸田副会長には他学会や海外との連携,古谷副会長にはカーボンソリューション関連活動,三上専務理事には学会業務を主にご担当頂きます。また,各理事には,学会誌発行,シンポジウムや各種の講座,研究会の企画実施をご担当頂きます。会員の皆様からのご意見を運営の参考にするため,学会会員 HP に投書ボックスを設けますのでご活用ください。ワクチン接種が進み,トンネルの先に明かりが見え始めており,会員の皆様と直接お会いできる機会を再開することを楽しみにしております。
2021年8月
日本燃焼学会誌 第63巻205号より
日本燃焼学会誌 第63巻205号より
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