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日本燃焼学会会長
丸田 薫 MARUTA, KAORU
この度,藤森前会長の後任として,日本燃焼学会会長を拝命いたしました.歴史と伝統ある本会の長という重責を担うにあたり,身が引き締まる思いです.
国によっては燃焼利用そのものが批判にさらされる風潮のなか,世界のエネルギー需給構造そのものが激変期を迎えています.化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトという大きな流れのもと,人類は,地球環境に配慮しながら,科学的・経済的に合理的な手段によって,この転換期を乗り越えていく必要があります.燃焼は現在も,発電・輸送・民生や,数多の産業にいたる膨大な分野において不可欠なエネルギーを支えています.二酸化炭素濃度の増加に歯止めをかけるだけでなく,その濃度低減にも貢献し,人類の発展を図る必要があります.例えば自動車産業では世界的に,特に中小型車輌における急速な電動化がすすんでいます.しかしながら発電用一次エネルギーの多くを化石燃料に依存したまま大規模な車輌電動化を推し進めることは,二酸化炭素の排出源を右から左に移し替えることであって,発電用一次エネルギー構成の転換と同期させなければ,却って全体として急速な電力需要の増加を招き,二酸化炭素排出を増加させることになりかねません.対象範囲を適切に捉えたLCA等の分析と転換計画に基づき,各国の事情も踏まえながら,国際的な合意形成・協調によるアクションが必要になります.それにはエネルギー源の国際間輸送・貯蔵や,直近急速に注目を集める新技術を併用した,バランスのよいエネルギーミックスを実現する必要があります.
現在,世界的に精力的な水素利用に向けた研究開発がすすめられています.そのなか,水素や燃料アンモニアが世界規模で大きな注目を集め,我が国を先頭にエネルギー転換に不可欠な一つの国策として挙げられ,国際的に大きな拡がりを見せています.このことは,燃焼に関わる本会の関係各位,我が国関係者のみならず,国際的にも大きな意味を持っています.水素エネルギーキャリアの一つとしてのアンモニアに注目したSIP事業をきっかけに,必要なら「そのまま燃やすこともできる」燃料アンモニアへの道筋を我が国の燃焼基礎研究が拓いたことは,世界中の既存インフラを活用しながら,科学的・経済的合理性をもってエネルギー転換を図ることのできる有望な手段を創出したことになります.さらにアンモニアを含む水素の製造や輸送・貯蔵の問題が,パイプラインを持たない,日本をはじめとする多くの島しょ国において解決できれば,過渡期における混焼技術とも相まって,カーボンニュートラルに向けた取り組みに多くの選択肢をもたらすことになります.
燃焼学的にみれば,水素の燃焼速度は常温常圧でおよそ数m/s,炭化水素燃料では0.5~1m/sのオーダ,アンモニアでは0.1m/sのオーダとなります.反応時間スケールの大きく異なる窒素酸化物の排出を巧みに制御してきた燃焼技術の懐の深さを持ってすれば,多様な特性を有するこれら燃料の巧みな利用が可能になると期待されます.反応性流体分野のうち,もっとも高度に発達した燃焼分野が,水素・アンモニア燃焼に限らず,機械学習,人工知能,量子計算といった新分野を取り込みながら,今後とも全体としてバランスの良い発展をしていくことが望まれます.我が国ではあまり耳目を集めませんが世界的には,森林火災や災害時対応に向け,火災や爆発研究の必要性も高まるばかりです.グレー,ブルー,グリーンといった水素やアンモニアに代表される再生可能エネルギーのクリーン化も含め,CCUSとの組合せによる従来型燃料の利用,またSAFやe-fuelを含む合成燃料の利用拡大という背景も鑑み,燃焼研究の重要性は,今後とも高まりこそすれ,下がることはないと考えます.実際,コロナ禍を経て再開された燃焼に関する多くの国際会議では,記録的な水準で参加人数を更新し,燃焼研究の世界的な盛り上がりを示しています.また航空宇宙分野におけるさらなる高速輸送や推進技術への世界的な関心の高まりも,人類の活動を大きく拡げる,夢のある分野の一つです.
日本燃焼学会は,国際燃焼学会The Combustion Instituteの日本支部として,世界のコミュニティに参画してきました.歴史的にも液滴燃焼,対向流火炎,微小重力火炎,高温空気燃焼,燃料アンモニアなど各分野でその世界的発展をリードしてきました.一部の先進国で燃焼研究が冷遇を受ける昨今,我が国ではバランスの良いエネルギーミックスが国策として提示され,国力の源泉である自動車産業・重工業・製造業等においても多様な研究開発ポートフォリオが提唱されていることは,心強い限りです.日本燃焼学会の理事会は35名が定員で,その半数を企業理事がお務めになっています.国力の源である産業技術開発と,自由な発想に基づくアカデミアの基礎研究とが互いに協調する場として,また学生諸君,若手研究者・技術者のネットワーキングや国際舞台での鍛錬の場として,さらには科学・経済的に合理的な道筋を見いだし広く発信するための場として,日本燃焼学会の内外での活動が今後とも発展するよう,微力ながら全力を尽くしたいと思います.今後とも関係各位のご尽力,ご協力をよろしくお願いいたします.
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この度,藤森前会長の後任として,日本燃焼学会会長を拝命いたしました.歴史と伝統ある本会の長という重責を担うにあたり,身が引き締まる思いです.
国によっては燃焼利用そのものが批判にさらされる風潮のなか,世界のエネルギー需給構造そのものが激変期を迎えています.化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトという大きな流れのもと,人類は,地球環境に配慮しながら,科学的・経済的に合理的な手段によって,この転換期を乗り越えていく必要があります.燃焼は現在も,発電・輸送・民生や,数多の産業にいたる膨大な分野において不可欠なエネルギーを支えています.二酸化炭素濃度の増加に歯止めをかけるだけでなく,その濃度低減にも貢献し,人類の発展を図る必要があります.例えば自動車産業では世界的に,特に中小型車輌における急速な電動化がすすんでいます.しかしながら発電用一次エネルギーの多くを化石燃料に依存したまま大規模な車輌電動化を推し進めることは,二酸化炭素の排出源を右から左に移し替えることであって,発電用一次エネルギー構成の転換と同期させなければ,却って全体として急速な電力需要の増加を招き,二酸化炭素排出を増加させることになりかねません.対象範囲を適切に捉えたLCA等の分析と転換計画に基づき,各国の事情も踏まえながら,国際的な合意形成・協調によるアクションが必要になります.それにはエネルギー源の国際間輸送・貯蔵や,直近急速に注目を集める新技術を併用した,バランスのよいエネルギーミックスを実現する必要があります.
現在,世界的に精力的な水素利用に向けた研究開発がすすめられています.そのなか,水素や燃料アンモニアが世界規模で大きな注目を集め,我が国を先頭にエネルギー転換に不可欠な一つの国策として挙げられ,国際的に大きな拡がりを見せています.このことは,燃焼に関わる本会の関係各位,我が国関係者のみならず,国際的にも大きな意味を持っています.水素エネルギーキャリアの一つとしてのアンモニアに注目したSIP事業をきっかけに,必要なら「そのまま燃やすこともできる」燃料アンモニアへの道筋を我が国の燃焼基礎研究が拓いたことは,世界中の既存インフラを活用しながら,科学的・経済的合理性をもってエネルギー転換を図ることのできる有望な手段を創出したことになります.さらにアンモニアを含む水素の製造や輸送・貯蔵の問題が,パイプラインを持たない,日本をはじめとする多くの島しょ国において解決できれば,過渡期における混焼技術とも相まって,カーボンニュートラルに向けた取り組みに多くの選択肢をもたらすことになります.
燃焼学的にみれば,水素の燃焼速度は常温常圧でおよそ数m/s,炭化水素燃料では0.5~1m/sのオーダ,アンモニアでは0.1m/sのオーダとなります.反応時間スケールの大きく異なる窒素酸化物の排出を巧みに制御してきた燃焼技術の懐の深さを持ってすれば,多様な特性を有するこれら燃料の巧みな利用が可能になると期待されます.反応性流体分野のうち,もっとも高度に発達した燃焼分野が,水素・アンモニア燃焼に限らず,機械学習,人工知能,量子計算といった新分野を取り込みながら,今後とも全体としてバランスの良い発展をしていくことが望まれます.我が国ではあまり耳目を集めませんが世界的には,森林火災や災害時対応に向け,火災や爆発研究の必要性も高まるばかりです.グレー,ブルー,グリーンといった水素やアンモニアに代表される再生可能エネルギーのクリーン化も含め,CCUSとの組合せによる従来型燃料の利用,またSAFやe-fuelを含む合成燃料の利用拡大という背景も鑑み,燃焼研究の重要性は,今後とも高まりこそすれ,下がることはないと考えます.実際,コロナ禍を経て再開された燃焼に関する多くの国際会議では,記録的な水準で参加人数を更新し,燃焼研究の世界的な盛り上がりを示しています.また航空宇宙分野におけるさらなる高速輸送や推進技術への世界的な関心の高まりも,人類の活動を大きく拡げる,夢のある分野の一つです.
日本燃焼学会は,国際燃焼学会The Combustion Instituteの日本支部として,世界のコミュニティに参画してきました.歴史的にも液滴燃焼,対向流火炎,微小重力火炎,高温空気燃焼,燃料アンモニアなど各分野でその世界的発展をリードしてきました.一部の先進国で燃焼研究が冷遇を受ける昨今,我が国ではバランスの良いエネルギーミックスが国策として提示され,国力の源泉である自動車産業・重工業・製造業等においても多様な研究開発ポートフォリオが提唱されていることは,心強い限りです.日本燃焼学会の理事会は35名が定員で,その半数を企業理事がお務めになっています.国力の源である産業技術開発と,自由な発想に基づくアカデミアの基礎研究とが互いに協調する場として,また学生諸君,若手研究者・技術者のネットワーキングや国際舞台での鍛錬の場として,さらには科学・経済的に合理的な道筋を見いだし広く発信するための場として,日本燃焼学会の内外での活動が今後とも発展するよう,微力ながら全力を尽くしたいと思います.今後とも関係各位のご尽力,ご協力をよろしくお願いいたします.